SPECIAL

SHORT STORY

#1-1
久瀬セツナ「紅蓮」

優しい姉が、まっすぐな心のまま、幸福に生きていけるように。
その人生を、一番近くで支えてゆく。

「いっしょにいるよ。ずーっと、ね」

島を襲った惨劇の日。
死の危機に陥った時に、久瀬セツナは自分の過去を思い出した。

セツナはかつて魔人として生き、「何か」が起きて、力を失った。
その身に秘めていた魔人の力――炎を生み、生命を奪って自らのものにする力――も壊れかけ、機能の大半を失っている。

それでもこの能力は、知能を持たない怪物や、悪意ある魔人に奪われてはいけない。
だから、今のセツナが抗うことのできない強敵と対峙した際には、奪われる前に自ら壊す。
能力ごと、自らの命を燃やして消滅する。
それが魔人としての「セツナ」が決めていたことだった。

悲劇は、魔人の襲撃が発生した際に、「久瀬セツナ」にとって、何より大切なものと言える存在――久瀬シイナが近くにいたことだった。

セツナ一人が死んでシイナが助かったとして、その後シイナが普通に生きていくことも、おそらくは難しかった。
シイナにとってのセツナは、シイナが今の「久瀬シイナ」として生きるための、灯火のようなものだったから。

二人で協力して魔人を倒して、二人で元通りの生活に。
それができれば一番よかった。

だが、それはできなかった。

だからセツナは、セツナにできる最後の、そしてたった一つのやり方を選ぶしかなかった。

炎の力――「紅蓮」を、シイナに譲渡する。
かつて壊れてしまって以来、脆弱で穴の開いた容器のように力を蓄えることのできなくなったセツナの身体と違い、健康で強靱なシイナの身体なら、紅蓮の炎は強く激しく燃え上がる。
その炎がきっと、シイナの命と未来を守ってくれる。

望まぬ力を無理矢理渡してしまうことに、迷いはあった。
それでも「生きてほしい」という思いが勝った。
自分の死が、自分との別れが、シイナの心を歪めてしまわないように。

優しい姉が、まっすぐな心のまま、幸福に生きていけるように。
その人生を、一番近くで支えてゆく。
自分は消えたとしても、「紅蓮」の炎が、シイナを強く支えてくれることを願って。

「大好きだよしーちゃん。ずっとずっと、元気でね――」