第11話スチールa

炎上する街、そして静かにたたずむ闇の書の意志と、それに対峙するなのは。

覚めない夢の中で、終わりのない夢を見続けること。

それは永遠だと言う闇の書の意志の言葉を、なのはは否定する。

闇の書の内で、フェイトは目を覚ます。そこは幼い頃を過ごしたミッドチルダの山中、その中に停泊した時の庭園の一室だった。温かな朝の光の差す、懐かしい室内。

柔らかなベッドのとなりで眠っていたのはフェイトのオリジナル、アリシア・テスタロッサだった。困惑するフェイトだったが、部屋をノックして入ってきた自分の家庭教師であり世話係だったリニスの姿を見て、驚きと困惑はさらに深まる。

リニスは母プレシアがフェイトを育てるために作成した使い魔であり、フェイトを一流の魔導師に育てあげた彼女はその役目を終え、すでに天に召されていたはずだった。

フェイトの記憶にあるのと変わらない声と笑顔でフェイトにほほえみかけるリニスと、フェイトを「妹」として甘えるアリシア、事件のことなどなにも知らない様子で、アリシアと仲良くしているアルフ。なによりの困惑は、食卓で待っていた母プレシアだった。

フェイトが持つアリシアの記憶の中にあった、優しく美しい母親としてフェイトに微笑みかけ、フェイトを優しく労る。そんな母に当惑するフェイト。

プレシアとアリシア、リニスとフェイト。現実では決して揃うことのなかった一同が揃っての穏やかな朝食。あたりまえの家族のように家族での外出や買い物の話を微笑みながらする、そんな風景にフェイトは「これが夢である」と思いつつも、涙を落とす。

それは、かつてフェイトがつらい戦いと悲しみの日々の中で、幾度も夢に見た風景そのものなのだった。

闇の書の内部…中枢に近い区画では、はやての意識が今まさに、深い眠りに落ちようとしていた。

闇の書の意志は、そんなはやてに眠りを勧める。あなたの望みは、すべて私がかなえます」と。

だが、はやては「自分の望み」がなんであったかを疑問に思う。

外では、闇の書の意志がなのはと激しい戦闘を繰り広げていた。

マガジンを装填しながら、レイジングハートにスターライトブレイカーを撃つチャンスの有無を問うなのは。そんななのはに、レイジングハートはひとつの方法を提示する。

それは、禁じられていたフルドライブ「エクセリオンモード」の起動だった。

レイジングハート破損の危険のあるフルドライブモードに反対するなのはだったが、レイジングハートはただ静かに、エクセリオンモード起動の命令を自分に下すよう、なのはに伝える。

闇の書内部、フェイトの夢の中では、アリシアとフェイトが草原に出ていた。よく晴れた空の下、寝ころんで読書をするアリシアと、木陰でそれを見つめるフェイト。不意に降り始めた雨に帰宅をうながすアリシアだったが、フェイトはそれを断る。

そして、フェイトはいまのこの世界が自分の夢であることをアリシアに確認する。

アリシアが生きていたなら、フェイトは生まれていない。プレシアも、あんなに優しくない。そうつぶやくフェイトに、アリシアはプレシアをかばう。プレシアはただ、アリシアを亡くした悲しみで壊れてしまったということ。そしてアリシアはたとえ夢でも、フェイトがこの世界にとどまることを望む。優しい母と世話係。変わらぬ使い魔と、小さな姉。

フェイトが望んでいた幸せのすべてをあげられる…と訴えるアリシア。

はやてもまた、自らが望んだ幸せを振り返っていた。

闇の書の意志は、はやての望みと幸せを「健康な体と、騎士たちとのずっと続いてゆく暮らし」と告げた。

そして自らが生み出す夢の中でなら、永遠にそんな世界にいられるのだとも。

だが、はやては眠りと夢の誘いを断る。「せやけど、それはただの夢や…」

外で続く闇の書の意志となのはの激戦。砲撃など通さないという闇の書の意志に、なのはは凜と答える。レイジングハートが、目の前で泣いている子を救えと告げていること。

思いを込めた一撃を、必ず届かせること。

エクセリオンモード突撃形態・ACSを起動させ、突撃槍と化したレイジングハートで高速突撃砲・エクセリオンバスターACSを放つなのは。

闇の書の意志のシールドに阻まれるが、カートリッジロードで砲身をシールド内に進入させ、捨て身の零距離砲撃を放つなのは。

自らもダメージを受けつつも、闇の書の意志に直撃を与えたなのはだったが、闇の書の意志はまだ沈んでいなかった。

さらなる戦いを覚悟するなのは。

闇の書の中枢で、はやては闇の書の意志と対話する。闇の書の意志が、自らの意志では制御できない暴走に心を痛めていること。守護騎士の精神とリンクしている闇の書の意志は、騎士たちと同じようにはやてを愛しく思っていること。

そして、だからこそ、暴走してはやての心と体を壊し、食らいつくしてしまうことを悲しんでいること。そんな闇の書の意志に、はやては答える。

闇の書の主は自分であり、主の言うことを聞かなければいけないと。

フェイトもまた、アリシアに別れを告げていた。そんなフェイトに、アリシアは手の中に隠していたバルディッシュをそっと差し出し、旅立ちを促す。自分はフェイトの姉であること。
現実でもこんな姉妹でいたかったと微笑みを残し、アリシアは消滅する。

はやては、闇の書に新たな名を贈ると言う。「闇の書」ではなく、「呪われた魔導書」でもなく。

新たな主の元で、新たな魔導書として生きるための新たな名を。

だが、自衛のための防御プログラムは止まらないため、闇の書の意志が行動を止めても、自動行動の防御プログラムが破壊を行うようになるだけだという闇の書の意志。

はやては闇の書の意志を自分の体と切り離し、あえて防御プログラムに体を明け渡す。 

そして外部と通信し、なのはに自分の体ごと防御プログラムを停止させるように依頼する。

突然の状況が理解できず困惑するなのはだが、状況に気づき、解決法に思い至ったユーノが指示を送る。

それは、肉体にダメージを与えない純粋魔力ダメージで、防御プログラムを一時停止させるということ。そうすれば管理者権限を持つはやてが、プログラムを書き換え、自らの体を取り戻すことができる。

物理破壊を伴わない純粋魔力攻撃は、なのはの攻撃の基本形である。

「全力全開、手加減なしでぶっとばして!」

その言葉に笑顔を見せ、エクセリオンバスターの砲撃モードで、防御プログラムが支配するはやての体に直撃を与えるなのは。

バルディッシュを手にしたフェイトも、自力で脱出するべく、フルドライブ・ザンバーモードを起動する。それはかつて母が望み、リニスが与えようとした「すべてを叶え、闇を断ち切る閃光の力」の発露でもあった。

管理者権限と自分の体を取り戻したはやては、闇の書に新たな名を贈る。

祝福のエール、幸運の追い風…強く支えるもの。

その名は「リインフォース」

内外からの攻撃で、完全に闇の書の意志とはやてから切り離された防御プログラム。

脱出に成功したフェイトとなのはは、無言の笑顔を交わす。

そして、暴走体の原因である防御プログラムは暴走に向けて胎動を始める。

まだ事態は終わってはいない。

最後の切り札・アルカンシェルの発動キーを握りしめつつ、リンディは軌道上から状況を見守るのだった。

 
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